家賃設定を超える物件は見ないブログ:2014年07月20日


「ごま漬けに酢は入れんのかい?」
それはママの認知症を決定づけた一言だった。

お姉ちゃんやいもうとからは、
最近ママが少しおかしいと聞いていたが、
遠く離れたおいらは、あまり気にもとめていなかった。

九十九里の名産であるごま漬けは、
小指程度の小さな背黒イワシを丸ごと、
頭と内臓をひとさし指でキュッと取って、
塩水に一晩、酢水に一晩つけ…

一段ずつ、きれいに並べ、
ゆず、はりしょうが、ごま、とうがらしの輪切と順番に振り、
一段、又一段と、気の遠くなるような作業を繰り返し…

そして
しばらく置くと、
息子もお年寄りも骨ごと食べれる
イワシのごま漬けの完成となる。

ママの味はどんな有名な店のものよりもおいしく、
ママ自身もそれをわかっていた。
だからおいらが実家へ帰るからというと
必ず手土産にと作ってくれておいた。

いつ頃からか少し味がかわってきて…
ん?何かが違うという感じが、現実のものとなったのだ。
50年やってきた当たり前が、ママの記憶から消えた。

たばこの自動販売機に古い500円札を入れて
入らないと泣きだしそうになったり、
お札に火をつけて燃やしてしまったり、
ママの中で一体何が起きているんだろう?

お父さんが亡くなって七年、
独りで淋しかったんだね…ごめんね…

今はまだ、
ママの中においら達はいるんだろうか?
おいら達の笑顔はママに届いているんだろうか?
おいら達の想いは…

忘れんぼうになったママは
「ありがと」「ありがと」とそればかり…
もういいよ。

ママのシワシワになった笑顔の中に
おいら達がいつまでもいられますように…

「ありがとう」は、おいら達の方だよ。